【読書】「もう歩けない」からが始まり――自衛隊が教えてくれた「しんどい日常」を生きぬくコツ 

 どうにも職場での心理的不安が年々増してきていてしんどい。余計なことを考えすぎだということは頭ではわかっていても、考えないわけにもいかない。

 ということで、メンタルヘルス系の本を買い漁ってしまっているが、いつか解脱できるときは来るのだろうか。

 結局人間というものは比較が好きなもので、自分より苦しんでいる人がいれば、まだ自分の苦しさなんて大した事ないと思えるものではないかということで、本書を手にとって見た。

 著者の語り口はユーモアに富みつつも不条理に支配された世界で冷静に生き抜いてこられたということがよくわかった。

 タイトルの「「もう歩けない」からが始まり」という、自身が限界だと思っているところがスタートラインという絶望極まりない中で、我輩の置かれている境遇と比べると、自衛隊でなくて良かったと、我輩の境遇なんて天国とはいわずとも、自衛隊の環境に比べたらなんでもないなということに気付かされた。そんなエピソードが満載だ。

陸上自衛隊では、行軍をよく行います。行軍は文字通り、車両を使用せずに徒歩のみで移動する手段です。距離は20~40kmが一般的ですが、空挺団や幹部候補生学校などでは100km行軍を行います。
そうした行軍をしていて、いかに辛くとも、なんとかしてその辛さをごまかしながら歩き続けられるかが、本当の訓練の始まりになります。
一方、教官としては、「辛いからやめたい」という「弱音」をいちいち聞いてあげていたら、いつまでたっても任務を達成することができません。
そこで、教官は新隊員にこのように教えます。
「『もう歩けない』からが始まりだ」
不思議なもので、そのように考えると、頭の中で、「やっとスタート地点に着いたんだ」とインプットされて、自分をごまかすことができて、少しは心に余裕ができるようになるのです。
もちろん、それでも「ダメです」という新隊員はいます。そうした隊員に対しては、教官は、「次の電柱まで歩け!」と伝えます。そして、次の電柱に着いたら、「その次の電柱まで歩け!」と伝えます。苦痛が永遠に続くと思うとしんどくなるので、小さな目標を与え、その目標を達成できるように指示するのです。
これは、一流マラソンランナーが限界ギリギリのトレーニングを行うときに用いられる考え方です。かのメキシコオリンピック銀メダリストの君原健二選手も、「私は苦しくなると、よく休みたくなるんです。そのとき、あの街角まで、あの電柱まで、あと100mだけ走ろう。そう自分に言い聞かせて走ります」と言っていました。まるで電柱は人生のマイルストーンですね。このように指示することによって、なんとか歩ききれるようになる隊員もたくさんいます。逆に言えば、両脚を動かし続ければ、いつかはゴールにたどり着くのです。

 とりあえず、今日1日頑張るという小さな目標に目を向けようと思ふ。